Takashi Mikuriya Laboratory | RCAST,The University of Tokyo 御厨貴研究室 | 東京大学 先端科学技術研究センター

introduction;駒場 もう一つの時計台からのメッセージ

 私が「駒場の秘境」の異名をとる東大先端研に着任して、8年目に入りました。
 生き馬の目を抜くようなと申しますが、御厨研究室のテーマも、あと2年で定年を迎えるという事情もあって、収束させるもの、芽ぶかせて他に移譲するものなど、あれこれ仕分けをする時期になりました。
 研究室内外の皆様のご協力を得ながら、着地点をめざして一歩一歩あゆみを続けていこうと決心しております。

 

以下に私の研究教育テーマを順次申し述べます。

I. オーラル・ヒストリー・プロジェクト

 下河辺淳(元NIRA理事長)、園部逸夫(元最高裁判所判事)、本野盛幸(元駐仏大使)三氏らの尽力によって、質量ともに充実した活動を行って、このプロジェクトも今年度で20年目を迎えます。東京都立大学、政策研究大学院大学をへて、先端研でじっくりと取り組んだ結果、ここにきて大きな成果が出始めました。細かく言うと、「古川貞二郎」「吉国一郎」「山崎正和」「田中一昭」「大森政輔」各氏のオーラル・ヒストリーが一段落し、一つの形にする段取りが進んでいます。
 政治家や官僚のオーラル・ヒストリーを進めると同時に、07年10月、『オーラル・ヒストリー入門』なる「おーらりすと」育成のためのテキスト・ブックが完成し、岩波書店より刊行の運びにいたりました。やはり2004年から開始したオーラル・ヒストリーのオープンスクール(夏の学校)が、2006年からは大学院先端学際工学の正式科目(春の学校)となり、6期生まで70人近くの修了生を出しました。当然のことながら、『成果報告書』も6冊を数えるにいたりました。
 これらの経験を生かし、武田徹さん、永江朗さん、丹羽清隆さん、それに井上寿一さん、牧原出さんらの協力を得て、ようやくマニュアル本が出来上がり、うれしい限りです。
 残念ながら今年度も学校はお休みにします。
 しかし、次のかたちに目鼻がついたら、OB・OGネットワークを駆使して、単なる同窓会に止まらぬ、ワークショップを開催したいと考えています。
 またオーラル・ヒストリー文庫の一層の充実をはかるため、保管・閲覧体制の確立をめざして、これまた新たなかたちにすべく努力してまいります。
 オーラル・ヒストリー活動そのものは、特任教授の牧原出さんと協力しながら、90年代の証言をひき出すべく、昨年からフル回転させています。
 さらに、オーラル・ヒストリーのコンメンタールやクリティークの作業の一環として、『アステイオン』に連載中の「近代思想の対比列伝」を順次、今年度から単行本にしてまいります。「後藤田正晴 vs 矢口洪一」「宮澤喜一 vs 竹下登」など目白押しです。
 最近、『後藤田正晴と矢口洪一の統率力』(朝日新聞出版)が単行本になりました。
 これらの作業に目処がついたらオーラル・ヒストリーの理論的考察も進めたいと念じています。

II. 公共政策プロジェクト

 公共政策については、政策研究大学院大学に着任して以来、ずっと試行錯誤を続けてきたように思います。本年6月で日本公共政策学会会長を退きます。
 4年前から研究室メンバーを中心に、月1回の割合で「先端公共政策研究会」を始めました。この研究会のもつ意義は、研究室メンバーによって様々に理解されています。
 各人各様の理解の中から、何が生まれるのかを楽しみに待っています。
 「先端公共政策研究会」の系として「90年代研究会」が生まれ、昨年12月、その成果として『変貌する日本政治』(勁草書房)が公刊されました。
 今年度中にはまた2冊目の『白書』をまとめる予定です。

III. 全学自由研究ゼミナール(御厨ゼミ)

 駒場に入りたての平成生まれの若者たちをしごくゼミナールで、本を「読み破る」ことをモットーに、これも2003年以来、今年で7年目の開講となります。
 フレッシュマンとのゼミは、こちらにとっても、様々な意味での刺激となります。文I、文II、文III、理I(時に理II、理III)など文科、理科にまたがって学生が集うことに、ヘテロ効果が現れて、面白いのです。
 毎週1冊、課題本を読み破り、A4の1枚紙に書き抜き、2時までにメーリスにのせます。セミナー室では、全員のプリントアウト分が渡され、それをもとに、ディスカッション。このくり返しです。
 卒業生、3、4年のOBのネットワークもしっかりしていて、懇親会、春秋の合宿、OB総会、ブックトリップ、特番など、イベントも多いのが特色です。年度末ごとの『文集』以外に昨年は『ブックトリップ』の冊子も作りました。
 彼等の活躍ぶりを、2年前に出版した『表象の戦後人物誌』(千倉書房)で、広く紹介しています。これこそオープンゼミの試みに他なりません。
 なおこのゼミの発展形態として、VIII「朝日ジャーナルを読む会」を参照して下さい。

IV. 御厨塾・日本政治史プロフェッショナルセミナー

 1999年以来、第1次5年は『佐藤栄作日記』全巻を読みました。
 第2次は『原敬日記』をうまずたゆまず皆で読んでいます。ようやく大正政変のところに来て、この2年ほどちょっと足踏みしていました。時に、塾構成員内外の発表をまじえ、また夏合宿は近代史紀行を行っています。一昨年度末には、私の『明治国家をつくる』の書評会を中心に、アーカイブをかねた第2次分の『冊子』が刊行されました。
 塾構成員による作品も公刊されています。下記の通り。
  ・「『正伝 後藤新平』を読む」(『環』24号)藤原書店、2006年冬
  ・『宰相たちのデッサン ― 幻の伝記で読む日本のリーダー ―』ゆまに書房、2007年
 昨年度は明治村に行き、『私のいち押し「明治村」』という冊子を作りました。
 今年度は、夏までにいよいよ『史料で読む近現代』(中公新書)を刊行し、秋から「塾」を本格的に再開します。
 新しい塾員を迎え、そろりそろりと出立です。

V. 建築と政治

 2006年、大学院建築学専攻を兼担して以来の新しいテーマです。
 「権力の館を歩く」という月1回の『毎日新聞』の連載にようやくひとまずピリオドを打ちました。わが研究室と毎日新聞学芸部から成る取材班は、みごとな成果を出しました。
 今年は、ブックフォーム化を進め、夏には本になる予定です。
 Part II も考慮中です。

VI. メディアと政治

 2007年4月以来、TBS系『時事放談』のキャスターを毎週日曜朝に務め、元老クラスの政治家と定期的に話をかわしています。
 『時事放談』公式サイト

VII. 書評空間

 新聞・雑誌での書評を担当するようになって15年以上がたちました。
 読売新聞読書委員(4年)、文学界図書室(4年)、毎日新聞書評委員(5年)をへて、2007年から再び読売新聞読書委員を勤めましたが、一昨年末で卒業しました。
 そこで一昨年12月に「書評論」講義を行い、それを1冊の冊子にまとめました。昨年度から、サントリー文化財団の支援をうけた「書評・時評のあり方」研究会に参加し、書評/時評について考えています。秋までに21世紀に入ってからの書評をまとめ、刊行する予定です。

VIII. 朝日ジャーナルを読む会

 2008年夏から月1回1年間続けたゼミの拡大バージョン。ポスドク2人、修士2人、学部生2人ですが、みな優秀でした。わがゼミ出身者の4人の今後が期待できます。
 2010年3月に総括研究会を開き、6人のメンバーは、ただ今、論文の形にしています。できましたら、冊子の形にしたいと希望しています。
 もっとも、村上義雄『「朝日ジャーナル」現代を撃つ』(朝日新書,2009年11月)の私へのインタビュー記事(p.43〜p.55)に、大要が述べられていますので興味のある方は是非。

IX. 日本政治外交史

 放送大学客員教授として8年目、テレビの『日本政治外交史』を、天川 晃、牧原 出 両氏と共に担当。印刷教材と映像教材は異なる展開になっているので、是非ご覧ください。
 この授業は今しばらく続けることになりそうです。

 

東京大学先端科学技術研究センター
教授 御厨 貴

(2010.4 改訂)

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